誰もが願うのは、健康を保ちながら長生きすること。そのためには、断熱性の高い家であることが大切です。
気温の影響を抑え、室内環境を快適に保つために欠かせない住まいの断熱。冷暖房コストを抑える省エネの観点から語られることが多いのですが、住む人の健康にも大きな影響を及ぼすことが分かってきました。断熱性の高い家が、健康で長生きすることにつながります。
寒い家は健康へのリスクがある
1年のうちで死亡者数が最も多くなるのが何月か、ご存知でしょうか?
厚生労働省の「人口動態調査」(2014年)によれば1月。次が12月です。その後は3月、2月と続きます。反対に、最も少ない月が6月、次いで7月。この結果は、直近の数年間だけでなく、過去半世紀、ほとんど変わっていません。季節でいえば、寒い冬に多くの人が亡くなり、暖かい季節は逆に少ないということが示されています。
冬に死亡率が高まる傾向はヨーロッパでも見られます。特に、冬期の脳卒中や心筋梗塞、肺炎などに代表される循環器系疾患の死亡率は、ポルトガルやスペイン、イギリスなどの比較的温暖な国の方が、北欧のような寒冷な国よりも死亡率が高くなっています。
これは、寒冷な国では冬の暖房がしっかり行われているのに比べ、温暖な国では、冬の室内環境が貧弱で寒いためとみられています(イギリスは、緯度は高いものの海流の影響で気候は比較的温暖です)。日本の都道府県別の調査でも似た傾向があり、温暖地で高断熱住宅の普及率の低い地域ほど、冬の死亡者が多くなっています。
こうした中、冬の室内の寒さを解決することで、死亡者数を減らすことに熱心に取り組んでいる国があります。たとえばイギリスでは、冬寒いなど居住性能の低い住宅は健康を害すると考え、国として推奨温度を公表。昼間の居間の最低室温は21℃。夜間の寝室の最低室温は18℃としています。18℃未満の室内では、血圧の上昇、循環器系疾患の恐れがあり、さらに16℃未満では呼吸器系疾患に対する抵抗力が低下すると警告しています。
遅れている住宅の断熱化
他方日本では、住宅の冬の寒さが大きな健康不安を招いていることが明らかであるにも関わらず、断熱性能は低いままにとどまっています。住まいが最低限確保すべき性能を定めた建築基準法には、構造強度や空気環境、明るさなどについての決まりはあっても、一定水準の断熱性能は求められていません。それも一因となって、日本の住まいの断熱性能は国際的に見ても低く、1999年(H11)に国が示した「省エネ基準」を満たす家ですら、全体の5%にとどまっています。
実証データも次々と明らかに
住まいの温度と健康の関係について、最近では科学的な実証データも集まりつつあります。
その一つが、「健康長寿住宅エビデンス取得委員会」の調査※です。断熱性能を高めるリフォームを行った家に住む人の血圧が、1年後には、最高血圧・最低血圧共に下がったという結果が出ました。また、一般的に血圧は起床後に大きく上昇することがあり、健康上の大きなリスクですが、断熱リフォームによって、起床後の血圧上昇が抑制される結果も出てきています。
※断熱改修による健康指標の改善効果を実証することを目的に、2011年〜2014年に行った実証実験。事務局は一般財団法人ベタービリング。
断熱リフォームで健康長寿を実現
適切な温熱環境である部屋が、健康長寿の暮らしを支えます。平均寿命が80歳を超え(女性86.61歳、男性80.21歳)世界のトップクラスにある日本も、WHO(世界保健機関)が提唱する健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)でみると、男女とも約10年、短くなっています。つまり、10年程度は誰かの支援や介護を受けながら生きていくことになっているのです。
家全体で断熱リフォームを行うと、一軒あたり200万円から300万円の費用がかかると言われますが、日常の生活範囲に限る、窓などの開口部に限定する、など工事範囲を絞り断熱リフォームを行う方法もあります。断熱性の高い家にすれば、光熱費が削減できる他、長く元気に暮らすことも可能になり、その結果、医療費や介護費が削減できるのです。暖かな家にして、ぜひ健康寿命を伸ばしましょう。