昇り降りに適した階段の寸法や設計、バリアフリーリフォームについて解説
掲載日:2023年8月10日
ご高齢の方や体の不自由な方にとって、階段の昇り降りは大きな負担を強いられます。日本の住宅は2階建てが主流ですので、<バリアフリー仕様の家づくり>のために階段のバリアフリー化をどうしようかとお考えの方は多いでしょう。
今回は、バリアフリーに適した昇り降りしやすい階段の寸法や、階段をバリアフリー化する方法について解説します。
住宅や階段のバリアフリー化を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
階段のバリアフリー化で重要な寸法について
ご高齢の方や体の不自由な方が暮らしやすいバリアフリー仕様の家づくりにおいて、重要なリフォーム項目のひとつが安全性の高い階段です。
新築やリフォーム時に階段の寸法を決める際には、「法定寸法」と「バリアフリーに適した階段の寸法」の両方を考慮しなければなりません。以下でそれぞれ詳しく解説します。
守るべき階段の法定寸法
住宅の階段の寸法は、建築基準法で以下の基準が定められています。注文住宅の建築やリフォームでは、制限なく自由に設計して良いわけではない点に注意してください。
階段の種別 |
階段及び踊り場の幅 |
蹴上げ(けあげ)の寸法 |
踏面(ふみづら)の寸法 |
住宅 |
75cm以上 |
23cm以下 |
15cm以上 |
上記の数値をそのまま適用すると勾配のきつい階段になりますが、あくまで最低基準です。法定寸法を満たしていれば、勾配を緩やかにしても問題ありません。リフォーム会社や建築会社と相談のうえ、使いやすい階段に設計しましょう。
バリアフリーに適した上がりやすい階段の寸法
ご高齢の方や体の不自由な方が使いやすい階段に設計するには、上記の法定寸法を守りつつ、体に負担をかけずに昇り降りしやすい階段にしなければなりません。人それぞれの身体の状態によって異なるものの、ご高齢の方が上がりやすい階段の寸法は「蹴上×2+踏面=60cm」が目安とされています。
日本人の標準的な歩幅に合っているとされる目安が60cmです。公共施設などで採用されており、階段の寸法に迷った際には参考にすると良いでしょう。ただし、人によって歩幅や身体の状態が異なるので、実際に住む方が昇り降りしやすい階段をイメージしながら設計するのが重要です。
階段のバリアフリー化で知っておきたい6つの方法
階段のバリアフリー化は基本的には新築や増築でないと難しいケースがほとんどです。しかし、リフォームで対応できるケースもあります。また、便利なアイテムを取り入れることで高齢者の方や体の不自由な方が階段を使いやすくすることもできます。
以下に6つの方法を紹介します。
実際に計画する際は、住宅のバリアフリー化に詳しいリフォーム会社に具体的な相談をしてみましょう。
階段の勾配を緩くする
ご高齢の方が階段を昇りやすくする方法のひとつが、階段の勾配を緩くするリフォームです。一般的な45度程度の階段の勾配を緩くすれば、ご高齢の方でも昇りやすくなります。また、蹴上げ(一段の段差)を小さくしたり、足を踏み込む「踏み面」の奥行を広くしたりするのも効果的です。階段のバリアフリー化では、以下の寸法を基本に設計しましょう。
・勾配:25~35度
・蹴上げ:15~18cm
・踏み面:25~32cm
階段のバリアフリー化では、階段の段差を低くして踏み面を広げるのがおすすめです。ご高齢の方や体の不自由な方でも昇りやすく、転倒の危険も軽減できます。バリアフリー仕様の家づくりにおいて、階段のリフォームはとても重要です。とくに、ご高齢の方が二階に上がる機会が多いのであれば、階段の勾配を緩くするリフォームを検討してみましょう。
階段の両側に手すりを設置する
2000年に改正された建築基準法で定められているように、住宅の階段には手すりを設置しなければなりません。ただし、階段の片側だけに手すりを設置するケースが多く、ご高齢の方の安全を完全に確保しているとは言い切れない面があります。階段をバリアフリー化でリフォームする際には、もう片方にも手すりを設置して安全性を高めるのがおすすめです。
なお、階段の手すりは降りる際の利き手側に設けます。階段の手すりには、形状や設置方法によって以下の種類があるので特徴を押さえておきましょう。
・一直線型:階段の勾配に沿って平行に設置する一般的な手すり
・L字型:縦と横の手すりを組み合わせた手すり
・据え置き型:壁に穴を開けずに使える設置タイプの手すり
・はね上げ型:未使用時に収納できるタイプの手すり
通常は一直線型やL字型を採用するのが一般的ですが、片側に壁がない場合は据え置き型で対応できます。階段に設置できるタイプも販売されているので、チェックしてみてください。より安全性を高めたいのであれば、手すりの表面に滑り止め加工を施しているタイプがおすすめです。力が弱い方でも握りやすく、手が滑って転倒してしまう危険を防げます。
階段昇降機を設置する
自力で階段を昇り降りするのが難しい方がいるなら、階段昇降機を設置するのもおすすめです。階段昇降機は座ったまま階段を昇り降りできる機械式のリフトで、駅などにも設置されています。1階と2階を行き来するのが必須であれば設置を検討してみましょう。
ホームエレベーターを設置する
ホームエレベーターを後付けで設置することも適用条件が限られますが、不可能ではありません。
大きな工事が必要ですし、設置コストはもちろん、設置後のランニングコストもかかります。しかし、高齢者の方や車椅子の方がストレスなく、一人で安全に上下階を移動できるという大きなメリットもあります。
ホームエレベーター設置には、建築基準法に基づいた確認申請が義務付けられています。リフォームでホームエレベーターを設置する際に10平方メートル以上の増築を伴う場合は「建築確認申請」も必要です。ホームエレベーターのメーカーやリフォーム会社に確認しましょう。
足元に照明を追加する
薄暗い階段の安全性を高めるべく、足元に照明を設置するのもバリアフリー化のリフォームで有効な方法のひとつです。階段の天井部に照明を設置しているケースは多いものの、足元にも設置すればより安全性を高められます。特に、ご高齢の方は足元に不安を感じるので、安心して昇り降りしやすくなるでしょう。ただし、あまり低い位置に設置すると階段の段差で影ができてしまい、見づらくなる場合があります。また、階段の足元に照明を追加する際には、以下のポイントも押さえておきましょう。
・50ルクス以上の照度を確保する
・段差で影ができないように取り付け位置に注意する
・蹴上げと踏み面の色を変えると見やすくなる
・人感センサーを搭載した照明を選ぶ
夜中にトイレで階段を昇り降りする必要がある時など、ご高齢の方が自分でスイッチを入り切りしなければならないのは不便ですし危険です。人感センサーを搭載した照明器具なら人が近づくと自動で入り切りし、より安全性を高められます。
床材を変える
バリアフリー向けに階段をリフォームする際は、踏み面全体を滑りにくい床材に変える方法も有効です。滑り止め加工を施した床材に変えるほか、併せて段鼻にゴムや金属のノンスリップを取り付けると滑り止め効果を高められます。
また、後付けで滑り止め加工を施したシートを重ね張りする方法もあるので、検討してみましょう。ただし、貼り付けた滑り止めシートによって踏み面が高くなってしまうと、つまずいて転倒する危険が増します。滑り止めの効果が高すぎて、つまずくケースもあるので注意が必要です。安全性を重視するなら、自分で材料を購入してDIYするのではなく、バリアフリーリフォームに詳しい専門業者に相談しましょう。
階段のバリアフリー化でかかる費用の目安
階段のバリアフリー化でかかる費用の目安を確認しておきましょう。一例として、回り階段に長手すりを取り付けた場合の費用の目安をご紹介します。
名称 |
規格・仕様 |
数量 |
単位 |
単価 |
金額 |
|
下地補強板 |
厚さ15×幅110㎜ |
6.0 |
m |
4,630円 |
27,780円 |
|
下地補強板 |
ビス止め |
6.0 |
m |
1,840円 |
11,040円 |
|
現場加工 |
木製 直径約35×長さ4,000㎜ |
2 |
本 |
7,000円 |
14,000円 |
|
現場加工 |
受けブラケット 角度調整機能付 |
12 |
個 |
1,080円 |
12,960円 |
|
フレシキブルジョイント |
5 |
個 |
2,480円 |
12,400円 |
||
エンドブラケット |
2 |
個 |
1,400円 |
2,800円 |
||
エンドキャップ |
2 |
個 |
350円 |
700円 |
||
現場加工 |
ブラケット止め |
7 |
カ所 |
2,100円 |
14,700円 |
|
合計 |
96,380円 |
|
||||
諸経費 |
19,276円 |
|
||||
総計 |
115,656円 |
|
標準的に必要な項目を上げて計算してありますが、あくまで目安です。実際の住宅やリフォームの状況によって大きく変わる場合がある点に留意しておきましょう。
住宅のバリアフリーリフォームの場合、介護保険や自治体の補助金制度の対象になる工事があります。また税金控除を受けられることもありますので、事前に確認しておきましょう。
まとめ
リフォームでできる階段のバリアフリー化の方法をおさらいしておきましょう。
・階段の勾配を緩くする
・階段の両側に手すりを設置する
・階段昇降機を設置する
・ホームエレベーターを設置する
・足元に照明を追加する
・床材を変える
バリアフリー仕様の家づくりにおいて、階段の安全性の確保はとても重要です。部屋や廊下などの平面な場所とは異なり、勾配のある階段での移動はご高齢の方や体の不自由な方にとって大きな負担になります。今回ご紹介した階段の寸法やバリアフリー化の方法を参考に、家族全員が快適に暮らしやすい家づくりを進めてください。
バリアフリーを目的にした階段リフォームの内容によっては、補助金や介護保険の対象になったり、税金の控除を受けられたりします。具体的に検討する際は、バリアフリーリフォームの実績が豊富で補助金や制度などにも詳しいリフォーム会社に相談しましょう。
◆記事監修
一般財団法人住まいづくりナビセンター 専務理事
河田 崇
河田 崇
元 独立行政法人 住宅金融支援機構 部長
工務店向けの省エネ基準解説書や木造住宅工事仕様書の作成などに従事
マンション管理士 建築基準適合判定資格者 2級ファイナンシャル・プランニング技能士
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